25 12月 GuitarViolとは?/GuitarViolの歴史
GuitarViol(ギターヴァイオル)とは?
GuitarViolはその名の通りGuitar+Viol、「弓で弾くギター」として開発されました。
「ギターを弓で弾くこと」を夢見てきたギタリストたちの願いをかなえた楽器です。
世界を見渡せば同様のアイディアから生まれた楽器は他にもありますが、数十年の試行錯誤が繰り返されたGuitarViolはおそらく一番の完成度を誇るでしょう。
アメリカの製作家Jonathan Eric Wilson氏によって、1本1本手作りされています。
「古楽器の電化」というハイブリッド弦楽器。
アルペジオーネやヴィオラ・ダ・ガンバといった古楽器に近い素朴なニュアンスを基調としながらも、奏法によっては二胡などのエキゾチックな弦楽器のエミュレートも可能です。
しかも充実したピックアップシステムにより、マイク録りだけでなく高品質なライン出力も手軽に可能になっています。
古楽器のテイストを持ちながら、近年のライブ・レコーディングなどにも楽に対応できるシステムになっているというわけです。
近年、特に映画/テレビ/ゲームのサウンドトラックを手掛ける作曲家・アレンジャーやソロアーティストたちを中心に急速に需要が高まっています。
チューニングはギターと同じ。弦はチェロ弦。
ギターと同じチューニング(6弦からEADGBE)でありながら短めの弦長が採用されています。
弦はギター弦ではなくチェロ弦を使います。これによってクラシック楽器に近い格調高いサウンドの獲得に成功しています。
フレットがあっても滑らかな音程変化が可能な指板。
「ステルスフレット(Sealth Fret)」。
GuitarViolは指板に大きな特徴があります。
いわゆるスキャロップ指板に似た形状をしていますが、よく見ると頂点に小さなフレットが顔を出しています。
この、フレットがありながら連続的な音程変化が可能な「ステルス・フレット」が2013年から採用されたことで
ポルタメントや振り幅の大きいビブラートが可能になり、GuitarViolはその表現力を一気に伸ばしました。
さらに進化した指板「Viol Gride」。
ステルスフレットの弱点は弦の消耗が激しいことです。
チェロ弦は全ての弦が巻き弦ですが、巻き線は柔らかい金属でできているためフレットの硬さに長期間は耐えられません。
しばらく使っていると弦のフレットに当たっている部分の巻き線が凹んできます。
さらに使い続けると巻き線は切れ、そこからほどけてしまいます。
こうなると音程が合わなくなります。
特に1、2弦は頻繁な交換が必要になってしまうことからステルスフレットの性能を維持したままさらなる改良が加えられ、
現在は頂点の部分まで木製の「Viol Glide」が基本スペックになっています。
私の楽器はステルスフレットのままですが、1弦のみギターのプレーン弦を張ることで消耗を回避しています。
ブリッジとテイルピース
ブリッジ
ブリッジ(駒)はチェロやアルペジオーネ、ヴィオラ・ダ・ガンバと同じく木製です。
ボディに接着はされておらず、弦を緩めると自然に外れます。
エレクトリックモデルではエレキギターに近い構造のメカニカルなブリッジが搭載されています。
テイルピース
テイルピースは弦のボールエンドをひっかけて固定するためのパーツです。
ボディに1本の金属製のアンカーで打ち込まれ、弦の張力によってバランスを保っています。
ピックアップのコントロール部
テイルピースにはピックアップシステム(L.R.Baggsの「iMix」)のコントロールが取り付けられています。
ブリッジ側(写真左)が2つのピックアップのバランサー、ボディエンド側(写真右)がマスターボリュームです。
GuitarViolのラインナップ
GuitarViolには大きく分けて2種類のラインナップがあります。
ギターのようにエレクトリックとアコースティックに分かれています。
それぞれの中で使用材や装飾によってさらに3段階にグレード分けされています。
モデル | Electric(エレキ) | Acoustic(アコースティック) |
グレード
(下に行くほどハイグレード) |
SPARTAN | Spartan |
TUNIC | Johann G | |
CHALICE | Vienna |
グレードが違っても楽器としての基本的なスペックはほぼ変わりません。差は使用材や装飾によるものであるようです。
エレクトリックモデルはボディの形状を3種類のシルエットから選ぶことができます。
またアコースティックモデルにはL.R.Baggsピックアップをオプションとして追加できます。
ヘッド・ペグは2019年からアルペジオーネスタイルのヘッドにウィットナーの高精度ペグの組み合わせに全モデルがアップグレードされました。
旧モデル「Electrocoustic」
以前はエレクトリックとアコースティックの中間である「Electrocoustic」というモデルが存在しました。
私が使っているのもこのモデルで、セミアコくらいの厚さの空洞ボディにL.R.Baggs iMixピックアップが内蔵されています。
このNOUVEAU SPARTANは「Electrocoustic」のもっともベーシックなモデルという位置でした。
カーボンファイバーのモデルも開発中
現在、カーボンファイバー製のアコースティックモデル「10XBETACF」も開発中であるようです。
GuitarViolの歴史
1989年のこと、GuitarViolの設計者であり製作家・演奏家であるアメリカ人Jonathan Eric Wilson氏が
「アルペジオーネ」という楽器の演奏を耳にしたことからこの楽器の開発が始まります。
アルペジオーネ(アルペジョーネ)は古楽器の一種で、「チェロの技術で演奏するギター」として19世紀前期に発明されました。
残念ながら現在はごくわずかな演奏家・研究家を残して博物館でしか見ることができないくらいにすたれています。
しかし、かのフランツ・シューベルトが作曲した「アルペジオーネ・ソナタ」のメロディはきっとあなたも耳にしたことがあるのではないでしょうか。
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この魅力的な楽器を現代に合った形でよみがえらせるべく、ジョナサン氏は40年のギター歴のうち30年を費やしてきました。
初号機が1993年に完成します。
2002年に大幅な改良が加えられ、現在の姿に近づきました。
2003年には商標登録が認められ、ジョナサンはGuitarViolの製作者・演奏家としてのキャリアを本格的にスタートさせます。
その後、長い年月をかけて形を変えながら今に至ります。
その進化はカリフォルニアの工房で今もなお続いています。
「GuitarViol」はGuitarViols inc.の登録商標です。
GuitarViol is a trademark of GuitarViols inc.
アルペジオーネについての記述は「アルペジョーネの世界」を参考にさせていただきました。
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